彼女をみたのは、マンションに引っ越した日だった。
毎日毎日、深夜までの仕事。
朝は早朝から、始発に乗って会社へ。
所謂ブラック企業というところだろう。
どれだけ疲れ切っていても笑顔で挨拶してくれる。
住んでるマンションの隣の部屋に男性が越してきたようだ。
高身長、顔も良い、仕事は多分。。。夜のお仕事のようだ。
帰宅時間に出ていくのを見かけるから。
私は疲れ切った顔をみせず、笑顔で彼に挨拶する。
彼女と毎日顔を合わせているとようやく気付く。
彼女に付きまとっている男がいることに。
いつもマンションの近くの電柱からジトーっとした眼で彼女を観ている。
でも彼女は見向きもしない。
彼に気づいてはいないのだから。
彼の存在は多分、俺にしか理解できないだろう。
人ならざるものが視える俺にしか。
「ずいぶんと無謀な恋だなぁ」
と感心しながらマンションを出て、いつもの職場へむかうことにした―――。
『なんて無謀な恋をする人』